コーダルとモーダル
スケールの覚え方は大きく分けると2つあると思います。
覚え方その1…従来方式
- イオニアン、ドリアン、フリジアン…と、個別にスケールを覚える
- 各コードに一つづつスケールを割り当てる
枯葉の冒頭8小節ならこんな感じです。
これを見たら、D7以外はBbのメジャースケールと使える音が同じだよねぇ、って思うかもしれません。転調の少ない曲だとあまりスケールの恩恵はありません。F7でオルタード、G-でドリアンを使ったりすると面白くなりますが、とりあえずここではシンプルにしています。
覚え方その2…マーク・レヴィン式
しかし、『ザ・ジャズ・セオリー』という本では、覚えなければならないスケールは、メジャースケールとメロディックマイナー、ディミニッシュ、ホールトーンの4つだけだと書いてあります。これはスケールを使える音の集積と考えた場合、イオニアンもドリアンもフリジアンも同じメジャースケールだからです。そしてロクリアン#2オルタード、リディアン7thは、メロディックマイナーになります。
今度はこの方法で枯葉の冒頭8小節です。この例の通りにBbメジャースケールを適当に弾いてみると違和感が残るはずです。その理由は、コードチェンジすればコードトーンもテンションもアヴォイドノートも変化するからです。しかし考える事がぐっと減って、より歌いやすくフレーズの組み立てに集中できるというメリットもあるような気がします。転調が多かったり、テンポが速い場合にも有効な方法だと思います。アドリブフレーズが不自然に感じられるのは、表拍に不協和な音が来たり、モチーフが無かったりと色々考えられます。
コーダルなアドリブ
「覚え方その1」の、スケールを個別に覚える理由を考えてみれば、コードトーンを中心にフレーズを組み立てるため、コードルートのスケールがそれぞれ必要となる、という事がわかります。こういうコードトーンを重視のアドリブをコーダルなアドリブと呼びます。これは1940~50年代のビバップやハードバップと呼ばれるジャズの特徴のひとつです。コードトーンとテンションだけで構成されたアルペジオや、表拍、特に1拍と3拍にコードトーンを置き、その前にコードトーンにアプローチする音を配置します。
この譜例では、1拍と3拍が必ずコードトーンです。1小節目の最初の音は5thのGでコードトーンです。次にターゲットとなるコードトーンのEbの半音下のD→全音上のF→半音上のE、と回転を伴い3音でアプローチしています。これはダブルクロマチックローテーションと言います。1小節目の後半はアルペジオです。2小節目の最初の音はF7の5thのCでコードトーンです。そして今度は次のターゲットとなる3拍目のコードトーンであるAに向かって、半音上→全音下→半音下という、1小節目前半とは上下逆のダブルクロマチックローテーションとなっています。その後3拍裏のF#は、Fに対して半音上からアプローチ、4拍裏のEbはコードトーンでもあり、次のターゲットDへのアプローチトーンでもあります。そして3小節目はアルペジオのみです。
このように、ビバップのアドリブは、アルペジオとアプローチトーンで構成されていることがほとんどです。このスタイルを作ったのはチャーリー・パーカーやディジー・ガレスピーといった人たちです。
モーダルなアドリブ
これに対して、「覚え方その2」では、コードトーンよりキーを考えます。そして小さなモチーフを繰り返すことでフレーズを構成します。『ザ・ジャズ・セオリー』ではこれをスケールのシークエンスと呼んでいます。このシークエンスを使えばコードトーンがどこに配置されようが、あまり違和感を感じなくなります。
このフレーズ例は、メロディックマイナーのシンプルなモチーフを短3度上に移調しながら繰り返しています。意識するのはコードトーンではなく、スケールとそのキーになります。こういったものはモーダルなアドリブ
と呼ばれ、1960年代以降のジャズでよく使われています。
『ザ・ジャズ・セオリー』では、このモーダルなアドリブに重点が置かれているので、コーダルなアドリブの説明がほとんどありません(ビバップスケールの説明はあります)。これは注意しないといけないところです。この本はジャズを学ぶには最もよい本だと思いますが、コーダルなビバップも勉強したいなら他で補う必要があると思います。
コーダルからモーダルへ
1950年代半ば、マイルス・デイビス、ビル・エバンス、ハービー・ハンコック、ジョン・コルトレーン、ウェイン・ショーター…といった人たちは、ビバップのコーダルなアドリブに限界を感じて、モードジャズに取り組み始めたのです。彼らはコーダルなビバップを完璧にマスターしてからモードジャズに進んだのです。そして今日のジャズのアドリブスタイルではコーダルとモーダルが混じっている訳で、「憂鬱と官能を教えた学校/菊地成孔・大谷能生」という本では、それを「コーダル・モーダル」と呼んでいます。そしてまた「ビバップは避けて通れない」とよく言われますが、本当にその通りだと思います。
という訳で、僕はどちらの方法も必要だと思いますが、順序としてはコーダル→モーダルだと思います。まずはスケールはそれぞれ個別に覚え、ビバップアドリブに役立てるのがいいと思います。