チャーリー・パーカーのアドリブ分析
アルトサックスの人は何か違う
セッションやジャズフェスなどではアマチュアの参加もあるので様々なレベルの演奏を聴くことができますが、これが意外な気づきをもたらしてくれます。アマチュアであってもアルトサックスの人たちのアドリブは何か違うのです。おそらくアルトサックスの人はチャーリー・パーカーの多大な影響を受けているのでしょう。ジャズのアドリブが脳内で発生する歌を楽器を通して音にしているものなら、楽器によるアドリブの差というのはないはずですが、実際は楽器によって脳内で発生する歌自体が違うのではないでしょうか。ピアニストはやっぱりパーカー的なフレーズが出にくいと思うのです。ともかくパーカーはかっこいいので分析です。
資料
分析と言えば耳コピですが、パーカーの音源は音が悪いモノが多いしコピー譜が沢山あるのでそれを使います。その中に『Omnibook(オムニブック)』と言うものがあり定番的なコピー譜となっています。内容の割に値段が安くて助かります。
耳コピーしないとは言ってもアクセントとか微妙なノリとかあるので、やっぱり音源を聴いて確認したいところです。オムニブックに対する音源を自分で調べるとなると非常に骨が折れるのですが、そこはネットで検索です。いつも読ませて頂いている soul jazz sax さんのブログの記事『Omnibook オムニブックの音源CD』を参考にさせて頂きましょう。ありがたい記事ですねぇ。
分析方法
度数を書く
まずコードからの度数を書いていきます。キーからの度数ではありません。この作業あまり意味が無いと思ってましたが、書いてみるとなぜか色々な事がハッキリとしてくる感じがします。
フレーズのタイプを書く
ここはアルペジオ、ここはアプローチトーン、ここはディレイドリゾルブ、ローテーション….詳細はそれぞれ後で述べますが、そいうった事を五線譜の上に書いていく訳ですが、ごちゃごちゃするので略記号でマークしていきます。
意図が解らない箇所は普通に「?」と書きます。汚いのですが、こんな感じです。
自分でわかればいいと思います…正直自分が何を書いたのか不明な時もあるのですが…その他気付いた事は何でも書いていきます。
- シークエンス
- アプローチトーン(クロマティックアップ)
- フレーズの合成
- アルペジオ
- アプローチトーン
- スケール
- ヴォイス・リーディング
- モチーフ
- トリル
- ディレイドリゾルブ
- フレーズの合成(仮称)
注意点
コードに対して変な音を出しているな?と思ったら、それは大抵パーカーの解釈と書かれているコードが異なっているからです。表拍にコードトーンではなく不協和なアヴォイドやスケール外の音がある場合は大抵そうです。コード表記に惑わされてはいけません。パーカーがどう考えて演奏していたかを考えます。
ハーモニックマイナーP5ビロウで通している例
これは有名なアルバム「Now’s The Time」に収録されている「Confirmation」からです。オムニブックは| A- D7 |というコードになっていますが、パーカーはD7のフレーズを吹いています。DハーモニックマイナーP5ビロウスケールの音を全部使ってます。この曲ではツーファイブをV7コードで演奏しているのが多いです。
フレーズの合成?
これは「Anthropology」 からです。コードトーンがどこに置かれているのか見てもあまりはっきりしないでしょう。しかし音の形に注目してしまうはずです。これはシークエンスで4回同じモチーフが繰り返されています。そしてふたつのフレーズをバラバラに分散して配置したように見えます。ここでは仮にこれを「フレーズの合成」と呼ぶことにします。同じようなフレーズが「Donna Lee」にもありますがこっちの方が洗練されています。前半の2個の音だけピックアップすると単なるスケール下降です。後半2個の音はBbのトライアドコードの各コードトーンに対して半音下からアプローチするパターンです。そして最初の2拍と最後の2拍はオクターブ違うだけで同じフレーズです。このフレーズには
という要素がある訳です。これが自然な歌として出てくるようにするには、こういったフレーズのパターンを何通りも作って試し、良いモノをリックとして蓄積していかないと無理でしょう。そういった事を短期間でやってしまって自由自在に扱えるようにした、というのは物凄く知的でクリエイティブな事だと思います。
分析していると、なんでこんな音を出しているのか?と思う事がよくあります。そこで「天才が感覚的に出している」と考えてしまうと分析とは言えません。パーカーは天才だからと言い、考えるのをやめる人がいますが僕はそんな態度が好きではありません。マイルス・デイビスによると、後年はヘロインで人格が変わってしまっていたという事ですが、元々はとても知的な人であったそうです。何らかの理由があるはずだと考えてみると案外答えが出るものです。考えてみるとどんどん理由がわからない音というのが減っていくものです。
フレーズの構成と特徴
パーカーの【フレーズを構成する要素】を考えると以下のようになります。
詳細についてはまた書いていきます…