チャーリー・パーカーの特徴1~アプローチトーン~
パーカーのアドリブは表拍(特に1拍3拍)にコードトーンを置き、そこに向けてアプローチするように他の音を置く事が多いです。それらはアプローチトーン(approach tones, approach notes)と呼ばれています。このアプローチトーンはバリエーションが多く複雑なものもあります。その中でもクロマティックを使ったアプローチトーンこそがチャーリーパーカーのアドリブの最大の特徴だと思います。特にクロマティックを使うとアウトサイド(調性外)の音を瞬間的に使う事になるのでフレーズが刺激的になります。
まずはアプローチトーンを整理してみます。
アプローチトーンの分類
ダイアトニック・アップ/ダウン
※以下の例ではターゲットとなる音を赤で示しています。
ターゲットに対してダイアトニックの(=調性内の=スケール内の)隣の音からアプローチします。これだけでは意味があまりありませんが、このような動きがダイアトニック・アップ/ダウンのアプローチです。
クロマティック・アップ/ダウン
ターゲットに対して半音上/下の音からアプローチするのがクロマティック・アプローチです。また全音上/下から半音2つでアプローチするのがダブルクロマティック・アプローチです。これらを使う時はコードトーンを表拍に置きます。以下はクロマチック・ダウンのコードトーンを表に置いた例です。
単体で使うとそれほど面白味のあるフレーズにはなりません。後述しますが、以下で紹介するローテーションやアルペジオと組み合わせる事が重要となってきます。
ローテーション
ローテーションは上⇒下と下⇒上の2種類とダイアトニックとクロマチックの組み合わせです。これは良く使われています。
これは「Scrapple From The Apple」からですが、このようにアルペジオの前でよく使われます。
これは「Donna Lee」のテーマからです。マイナーコードの11thはただでさえおいしいテンションなのですが、半音上⇒下というクロマティック・ローテーションによるアプローチによってさらに強調されています。
クロマティックスケール
単純に半音づつアプローチするだけです。考え方も指使いもすこぶる簡単ですが、なかなか効果的です。問題は1拍と3拍にコードトーンを置く事です。8分音符だと半音が4個の間隔、つまり長3度音程でコードトーンがぴったりと来るわけです。
コード内に長3度音程さえあれば使えるので書き出してみましょう。
- メジャーセブンスコード
Root ⇔ 3rd
5th ⇔ 7th - マイナーメジャーセブンスコード
3rd ⇔ 5th
5th ⇔ 7th - マイナーセブンスコード
3rd ⇔ 5th
7th ⇔ 9th - セブンスコード
Root ⇔ 3rd
7th ⇔ 9th - ハーフディミニッシュコード
b5 ⇔ 7th
こういったところで使える事になります。実際にチャーリー・パーカーがどんな風に使っているのか見てみましょう。
「Ornithology」のアドリブより。
「Dewey Square」のアドリブより。
頻出パターン
クロマティックとダイアトニックのアプローチ、そしてローテーションは、単独で使う事もありますが、組み合わせて使用されることの方が多いです。その中でも頻繁に使用されるパターンがあります。
ダブルクロマティックとクロマティックのローテーション
- 組み合わせ1
クロマティック・アップ ⇒ ダブルクロマティック・ダウン
- 組み合わせ2
クロマティック・ダウン ⇒ ダブルクロマティック・アップ
- 組み合わせ3
ダブルクロマティック・ダウン ⇒ クロマティック・アップ
- 組み合わせ4
ダブルクロマティック・アップ⇒クロマティック・ダウン
機械的に分類するとこのようになりますが、パーカーは組み合わせ2を良く使います。最後の組み合わせ4は今のところ聴いたことがありません。では、実際どんな感じで使われているのか見てみましょう。
これは「Confirmation」のアドリブからで、組み合わせ2です。この曲はVerveの超有名アルバム「Now’s The Time」に収録されています。この曲では組み合わせ2のパターンが何回も出てきます。
これは「Yardbird Suite」のアドリブからで、これも組み合わせ2です。
これは「Donna Lee」のテーマです。組み合わせ3です。
他にソニー・ロリンズの「Tenor Madness」や、パーカーの「Billie’s Bounce」のテーマでも使われています。という訳で、これらのダブルクロマティックとクロマティックのローテーションは、ビバップでは欠かせないリックなのだと思います。
経過音?
ビバップのアドリブはアルペジオと経過音だ、みたいな事が色々なサイトで書かれています。しかしパーカーの場合はそうではないと思います。それに経過音を考えてアドリブで半音を出すのは難しいと思います。コードトーンを表拍に置いてクロマティックにアプローチするというパターンを持っていると比較的簡単に半音が出てきます。実際パーカーのアドリブを調べてみると、経過音と呼べるもののほとんどはビバップスケールです。これは僕の推測ですが、アドリブ中のパーカーにはアプローチトーンとビバップスケールが常に頭にあり、経過音で音を繋ごうとはしていなかったと考えます。
発展
このように見ていくと、パーカーが使用したアプローチトーンは考えられる組み合わせの一部であり、まだまだ使っていない組み合わせは沢山あります。そこに発展の可能性が残されていますので、色々試してみるといいと思います。よく見るフレーズにこんなものがあります。
コードトーンを赤で示しています。ダイアトニックとクロマティックのローテーションの組み合わせですが、表拍にコードトーンという約束事を取っ払っています。その代わり8分音符を3個づつグルーピングしてポリリズム的になっていて面白くなっています。コーダルでリズム的に面白いフレーズですが、パーカーにはこういったフレーズは見られません。パーカーがコーダルなアドリブなら何でもやってる訳ではありません。
コーダルなアドリブ
アプローチトーンによるフレーズはスケール外の音も含まれる事も多いです。また、コードトーンに対してどのようにアプローチしていくのか?という事だけを考えて出来たフレーズです。なのでスケールを考えて出てくるフレーズでは無い、つまりコーダルなアドリブであるという事がよく解ると思います。