The Universal Mind
ジャズに興味をもったけど、何を聴いたらいいのかわからないので、誰かに相談するかネットで調べるなりして名盤という事になっているアルバムを買ったりして聴いてみたものの、どこがいいのかわからない、という事が多々あるかと思います。これは単純に好みの問題でしょうか?
耳は変化するか
日本語には「肥える」という表現があります。「口が肥える」「目が肥える」。 経験を重ねて、物事のよい悪いなどを感じ分ける力が豊かになる、という事です。では、耳も肥えるのでしょうか?
僕の場合、最初は4和音でさえ不協和に聴こえました。でも今は不協和なサウンドが大好きです。セロニアス・モンクやブラッド・メルドーが大好きなのですが、最初の印象はあまり良くありませんでした。ビバップの複雑なアドリブフレーズも最近のジャズのアウトフレーズも最初は何がなんだかわからない感じでしたが、どんどん心地よくなってきました。大人になったら聴覚は衰える一方なのですが、色々な音楽を聴いていると耳は肥えるのだと思います。
難しいジャズ
しかし、どんどん複雑なハーモニーやリズムを求め良い音楽を追求していくと音楽は難しくなるようです。そして肩の凝る疲れる音楽になってしまったり、最終的につまらなく感じてきたりします。実際ジャズは複雑になるにつれ人気を失っていきました。
ジャズ・ミュージシャン達は、その事をどう考えているのでしょうか。ここでビル・エバンスの重要な証言をみてみましょう。
The Universal Mind of Bill Evans
「ザ・ユニヴァーサル・マインド・オブ・ビル・エヴァンス」 という動画があります。
これは演奏を収めたものではなく、ビル・エバンスの実の兄でピアノ教師をしているハリー・エバンスがインタビュアーとなり、弟のビル・エバンスとジャズやその学び方についてリラックスした雰囲気で話をしている動画です。今は中古DVDしかないようで値段高いですね。僕は昔ケーブルTVで放送されていたのを録画して見ていました。
冒頭部分で”The Universal Mind”について語っています。
“普遍的な音楽の心-ユニーバーサル・マインド”は、誰の中にもある。私はそう信じている。すべての音楽はこの心と共に人々に語りかける。たとえ音楽が人々に語りかけても人々が理解する音楽のスタイルはそれぞれ違う。時代や文化の異なる音楽を理解するためにはあえて努力しなければならない場合もある。音楽的判断よりもプロの判断を-私はこの意見に反対だ。 私はプロの判断よりも素人の判断を信じている。音楽家に囲まれて過ごすプロたちには普通の人々の持つ純粋さが無いからだ。
プロの判断よりも素人の判断が正しいとするならば、難しい音楽であっても良い音楽であれば耳の肥えていない素人でも受け入れられるはずです。ジャズを聴いた事が無い人が難しいジャズを聴いたとしても、それが良いものであれば楽しめるはずです。
僕がジャズを聴き始めた頃の事を思い出すと確かにそうでした。難しくてもいい音楽は雰囲気が凄くて緊張感が伝わってくる熱いモノでした。僕が初めて買った「どジャズ」のアルバムは、ジョンスコの「ギタリストの肖像」(邦題はダサいですね。原題は Time On My Hands)です。ジャケットを見ると、ちょっとハゲてるのに格好良いチョイ悪おやじ(死語…)ぽくて、いかにも渋いギターを弾きそうな、いかにもジャズギタリスト的風貌だったので買ってみました。
Time On My Hands / John Scofield
これは今聴いても難しい部類に入ると思います。それまで「どジャズ」は聴いてなかった当時の僕は難しいとは思いましたが、ロックやポップスでは聴いた事のない迫力のあるドラムとか、とにかくすごい音楽だと感じました。どハマリして毎日聴いていました。最初に何も考えず買ったのがたまたま良いモノで良かったです。1989年なので28年前ですが、未だに飽きずに惹きつけられます。まぁこのメンバーで悪かろうはずがありません。
John Scofield (g)
Joe Lovano (ts)
Charlie Haden (b)
Jack DeJohnette (d)
シンプルな方がいいのか?
中にはビル・エバンスの言うところの、The Universal Mind を受け入れられない方もいるかもしれません。
「そういう事を言いだすと売れてるモノが良いという事になるではないか!」
と言われてしまいそうです。
では売れているものを聴いてみましょう。
視聴回数がすごい事になってます。イイネの数もすごいです。それだけ多くの人が見て聴いて支持したと言う事です。これを否定はできません。ファレル・ウィリアムスは今最も忙しいプロデューサーの一人でしょう。イントロなんかがシンプルながらセンスがいいなぁ、と感心してしまいます。
しかし10年後、20年後に聴いているでしょうか。確かに耳に心地よいサウンドだしシンプルでわかりやすいメロディとリズムは誰でも好きになる、そのように作られています。しかし問題はすぐに飽きてしまうという事でしょう。最初はいいなぁ、と思ったのですが曲の途中で飽き飽きしてきました。1000円ちょっとで買ったアルバムが一カ月くらいで飽きてしまって聴かなくなったら、もうそのアーチストは買わないでしょう。
一方で僕が最初に買った「どジャズ」のCD「Time On My Hands / John Scofield」ですが、28年後となった現在もちょこちょこ聴いています。おそらく今後も飽きずに聴き続けるでしょう。昔(ちょうどバブルの頃です)のCDは高くて3000円もしましたが、お値段以上の価値はあったと思います。
勿論、ロックやポップスでも飽きずに聴ける良いものは沢山ありますし僕は好きでよく聴いていますが、飽きる傾向はあります。それに対してジャズやクラシックはある程度の複雑さがあるためか、あまり飽きません。
ジャズ全盛期の名盤
1950年代のジャズ全盛期の名盤と言われるアルバムは未だに人気があります。作り手側がビル・エバンスの言う「The Universal Mind」をよく考えているからではないか?という気がしています。マイルスやホレス・シルバーなんかは特にそうです。単にセールスを考えていただけかもしれませんが(特にマイルスは)。好みもあるかと思いますが、音楽が難しくなったとしても魅力的な音楽は誰が聴いても魅力的なのかもしれません。
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