続・リックの練習は必要?
前回の記事「リックの練習は必要?」の続きです。
リックの練習を必要だと言う人の意見も、リックに頼るのは良くないという人の意見も、僕はどちらも納得してしまいます。おかしいと思うので考えてみました。
リックの練習をしてみて
リックの練習は随分前からやっていました。フレーズ集や教本にあった2小節から4小節程度のフレーズを全てのキーで練習します。こんな感じのフレーズです。
フレーズの長さは2~4小節ぐらいです。このぐらいの長さのフレーズをリックだと認識しています。フレーズ集のような本はこれぐらいの音数のフレーズがのっているような気がします。
しかし、しばらくするとリックの一部を変更したり別のものと繋ぎ合わせたりするようになりました。そして、リックはもっと短い方がいいのではないかと思うようになりました。
リックの断片
リックを覚えて使えるようになってくると、2小節~4小節のフレーズ全体が出てこなくても、断片が出てくる事がよくありました。こういった事からも事前に練習しておく対象は2~4小節といった大きなものでなく、4音ぐらいの、もっと小さな要素に分割した方がいいのではないかと考えはじめました。
バードはリックの練習をしていたか?
チャーリー・パーカーのよく歌うアドリブを聴いていると、どう考えてもリックを繋げている感じがしないのです。実際どうなのか知る由もありませんが、リックの練習なんてしていなかったんじゃないかと思うのです。よく出てくるパターンはありますが、それはもっと短いのです。
リックの分割
そこでリック(フレーズ)を分割して考えると以下のようになります。
- アルペジオ
- アプローチトーン
- スケール
- モチーフ
- シークエンス
- リニア・ライン(ヴォイス・リーディング)
etc…
フレーズ自体を覚えるのではなくて、こういった小さなもののパターンを覚えるべきなんじゃないかと、今ではそう考えています。
アルペジオやアプローチ・トーンは数個の音のかたまりです。この数個の音のかたまりを、家で練習しておく訳です。アルペジオやスケールなどは基礎練習でやっていると思いますが、このように考えるとより実践的な基礎練習に発展すると思います。
アドリブは喋りに似ている
我々が会話する時を考えてみると、話す内容すべてを丸暗記して覚えているわけではありません。しかし、単語は完全に覚えているはずです。話す時は無意識に近い状態で単語をリアルタイムに繋ぎ合わせて喋っているはずです。音楽の場合、単語にあたるのがアルペジオやアプローチトーンなどのフレーズの断片だと考えてみるとわかりやすいでしょう。
リックは熟語のようなもの
このように考えると、リックは熟語のようなものではないでしょうか。当然の事ですが、熟語よりも先に覚えるべきは単語だと思うのです。
実際のフレーズで考えてみる
バップではコードトーンを強拍(1拍3拍)に置くのがセオリーです。このフレーズはその通りになっているので2拍づつに区切って覚えるのがいいでしょう。単語を4個繋ぎ合わせたフレーズです。なので2拍単位で他の単語に置き換える事ができます。
1小節の後半と2小節の後半を置き換えてみました。前者はアルペジオを折り返しただけです。後者はパーカーがよく使うアプローチトーンによるフレーズに置き換えています。
試行錯誤でわかること
アルペジオを折り返すのは、音域が広くない管楽器で有効なだけではなくて、音域が上がりすぎないというメリットがあります。また僕のような初心者アドリブだと2度と3度のインターバルばかりに陥りがちですが、6度というインターバルの出現によって変化を付ける事ができます。アルペジオの折り返しというのは結構有効なんだと思います。
しかし、アルペジオの単体の基礎練習となれば、大抵折り返しの練習はしていないでしょう。実際にフレーズを試行錯誤してみると、前後関係によって指使いが変わったりするのでアルペジオの折り返しも練習しておかなければならない、という事に気づきます。さらにキーによって難易度が上がったり下がったりすることもわかってきます。
単語を入れ替えてみてわかること、つまり作曲している感じで試行錯誤していると、単語を繋げた場合の練習、つまりフレーズ練習の必要性に気づく訳です。
他にも色々なパターンが考えられます。上の譜例ではアプローチトーンとアルペジオで1小節を構成していますが、当然アルペジオとアプローチトーンでもいいですし、3連符や16分音符を使えばもっとエモーショナルなフレーズになると思います。気に入ったフレーズがあれば、似たような考えで別のフレーズを作れないか試してみるのもいいと思います。例えば、上の例でも使ったこのフレーズ(単語としての)は、パーカーがよく使うものです。
ドミナント7thコードで、b9→7→⊿7 と動いてトニックの5度に解決するものですが、解決先を3度にしてもいいはすです。
Bb音以降の音をオクターブ下げるのもアリでしょう。こんな感じで派生した単語フレーズをどんどん増やしていければいいと思うわけです。言葉でも派生語を一緒に覚えると効率が良いのと同じではないでしょうか。
ただし、これはコード・トーンに解決する事を考えるコーダルなアドリブの場合であり、モーダルなスタイルだとやるべきことや考えるべき事が変わってくるでしょう。ジョー・ヘンダーソンやマッコイ・タイナー等のスタイルを真似するのであれば、もっとスケール・シークエンスを練習するべきでしょう。ちなみにスケール・シークエンスについては『ザ・ジャズ・セオリー』に詳しく書いてあります。
しかし、どんなスタイルであれ、大切なのは作曲しているという意識ではないでしょうか。
リアルタイムの作曲
先日ご紹介した『すごいジャズには理由がある』には、こう書いてあります。
「ジャズはプレ・コンポジションとリアルタイム・コンポジションが混ざったような音楽」
つまり、アドリブとはリアルタイムの作曲という事です。演奏前に練習しておくべきことと、演奏中にやるべきことを明確に分けて考える、という事は結構ポイントではないかと思います。
- 何を記憶し演奏できるように練習しておく必要があるのか?
- プレ・コンポジションとして、演奏前にやっておくべきことは何か?
- リアルタイムで演奏中にやるべきこと、考える事は何か?
結局はそういう事を考え整理できていなかったから迷ってしまったのではないかと思います。
そうなると今練習している事は、どの時代のジャズなのかを意識できていないとおかしい、という事になります。例えば、50年代なのか60年代なのか。ビバップ、モード、あるいはフリーなのか。さらに言えば、誰のスタイルを真似ようとしているのか。そういった事を明確にしてから練習した方がいいと思うようになってきました。
結論
- 熟語よりも単語を先に覚える
- 単語を繋げてフレージングする
- 単語の練習だけでなく試行錯誤する(それはリックの練習に近くなる)
- スタイルが異なれば単語も文法も異なるのでプレコンポジションとリアルタイム・コンポジションをは何なのかを整理しておく
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