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黒本問題

黒本とは

黒本とはリットーミュージックから出版されている『ジャズ・スタンダード・バイブル/納 浩一(著)』というスタンダード曲集の事です。表紙が黒い本なので黒本と呼ばれています。ジャズで使う譜面は、コード進行とメロディのみが書かれた簡易的なリードシートというものです。イントロやエンディングも書かれている場合があります。

こういった本は他にもありました。表紙が青っぽかったので青本と呼ばれた『スタンダード・ジャズハンドブック/伊藤 伸吾(著)』や歌詞も書かれている『ジャズ・スタンダードのすべてベスト401』、そしてルーツとも言える『リアルブック』などがあります。

セッションで定番の黒本

今のところ、スタンダード曲集の中で一番支持されているのが黒本でしょう。セッションに行けば大抵みなさんこれを持って来ています。お店で用意している場合もあります。支持される理由は色々あると思いますが、セッションに持って行って使いやすいかどうかだと思います。ですから内容だけでなく見やすさや大きさも売れる要因となっているのでしょう。黒本は基本的に1ページにつき1曲というレイアウトで見やすいし分厚さと曲数のバランスが絶妙です。

スタンダード曲集の問題点

そんな黒本ですが、このような状況にネガティブな意見もあります。眉をしかめて「こんなもんいらん!」と言う人もいます。上級者やプロにそういった人が多いように思います。これはなぜでしょうか?

スタンダード曲集は本によってコードやメロディが違う事が多々あります。これはどれが正解でどれが間違っている、という事ではありません。オリジナルは常に1つのはずですが、誰かがリハーモナイズして演奏してたものが有名になり、そのレコーディングバージョンの方が一般的になってたりする訳です。オリジナルを使うのか、ちょっと変えられたものを使うのか、その選択がスタンダード曲集によって違う訳です。

例えば、ガーシュウィンの「Summertime」という曲があります。この曲は標準化が難しいと思います。色々な人が色々なアレンジで演奏して、それぞれに味わい深いものがあります。冒頭のマイナーコードにおける長6度と長7度の繰り返しが印象的で、この曲のアイデンティティと言えるでしょう。ビリー・ホリデイやサッチモのバージョンではそれが見られます。『ジャズ・スタンダードのすべてベスト401』はこれらとほぼ同じコード進行です。しかしサマータイムと言えば、コルトレーンのアルバム「My Favorite Things」に収録されているバージョンも有名です。これはテンポが速いモード曲で全然違う曲になっています。一般的なジャズのセッションでどういったコード進行で演奏されているのかわかりませんが、黒本とリアルブックはオリジナルとも、コルトレーンのものとも異なるコード進行です。

他にも「’Round Midnight」という曲があります。この曲はモンクの曲ですが、良く売れたのはマイルスの演奏で、一般的にイメージされるのはマイルスの黄金クインテットによるものでしょう。しかし黒本に載っているコード進行はモンクのコード進行を基本としています。著者の納さんはモンクが好きなのかなぁ、と思いきや、「Well, You Needn’t」というモンクの曲では、マイルスがアルバム「Steamin’」で演奏した時のメロディとコードです。この曲ではコードだけでなくメロディもモンクのオリジナルから変化しています。(ちなみに、モンクはマイルスが勝手に曲をいじって変えるのを良く思っていなかったようです)

このように一口にスタンダード曲といってもコード進行も様々なので、どれが一般的なのか検討して標準化されたものがスタンダード曲集、その名の通り標準化の本なのです。標準化とはより一般的なものに、自分自身ではなくみんなが支持するコード進行やメロディを選択することになります。この事は個性を大切にするジャズにはあってはならない事のようにも思えます。

黒本か自作リードシートか

スタンダード曲集のコード進行がどうも気に入らない事はよくあることです。特に思い入れの強い好きな曲です。そしてそういった曲は過去にどんな演奏をされているのか知りたくなります。色々な演奏を耳コピーしてハーモニーやメロディーの違いを知ろうとする訳です。また自分で考えてリハモなどして自分だけのバージョンになる事もあるでしょう。本来はそうあるべきなのだと思います。それで、こだわりの強い人は自分だけのリードシートを持っている訳です。そのような人からすると、「黒本なんかなんで買うの?」ってなるのは当然の事ではないでしょうか。

色々こだわった結果たまたま黒本と同じになることはあるでしょう。また、シンプルなビバップ曲、例えば「C Jam Blues」や「Now’s The Time」などはどんなスタンダード曲集でも同じになると思います(そもそも譜面が必要ないかも)。しかしそういった場合を除いて、スタンダード曲集のリードシートで満足しているというのは、それほどこだわりがない、それほど好きではない、という事にならないでしょうか。黒本通りのコード進行で自分の大好きなスタンダード曲を練習している、という人がいますが、ちょっと違和感があります。好きな曲のリードシートは自分で作った方がいいと思うのです。

黒本は必要

しかしながら、黒本は必要だと思います。セッションで演奏する曲を全て自分で決める訳でもないし、思い入れの無い曲も沢山ある訳です。 セッションで曲を決めさせてもらえる事はそれほど多くないと思いますが、思い入れの強いこだわりのある曲は自作リードシートを作っておいて、それを使えばいいでしょう。そして、それほどこだわらない曲は黒本を使うようにすればいいでしょう。

しかし黒本が有用だと思う理由はそれだけではありません。コードヴォイシングやスケールの練習に黒本を使うのです。こういったスタンダード曲集のルーツは「リアルブック」ですが、それはポール・ブレイや、スティーブ・スワローチック・コリアといったジャズ・ミュージシャンがジャムセッションやインプロビゼーションの練習を行うために作ったものです。元々練習用、セッション用として誕生した訳で、黒本のようなスタンダード曲集はアマチュアのジャズプレイヤーを増やすのに多大な貢献をしていると思います。

また初心者のうちは耳コピーが大変ですが、黒本を足がかりにすると楽になります。最初はどこが違うのか、というところから始めるのもいいかもしれません。

黒本を買う時の注意

黒本には1と2があります。どちらも必要だと思いますが、持ってない人は1が先でしょう。微妙に色の違う「in Bb 」「in Eb」とか書かれたものがありますが、それらは管楽器さん用なので間違って買わないようにしましょう。

黒本1

ジャズ・スタンダード・バイブル (黒本1)

ジャズ・スタンダード・バイブル
(黒本1)
納 浩一 (著)
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黒本1はリング版もあるようです。僕が黒本を買ったのはこれが発売される前です。これ洗濯バサミいらなくていいなあ。

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ジャズ・スタンダード・バイブル
(黒本1リング綴じハンディ版)
納 浩一 (著)
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黒本2

黒本2はリング版がありません。まだ持ってない人は待つべきか…。

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ジャズ・スタンダード・バイブル2
(黒本2改訂版)
納 浩一 (著)
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黒本2は最近(2017.2.25)改訂されたようです。改訂前と後で掲載曲に変化があるようです。

改訂前の曲目
改訂後の曲目

そこで差分ツールを使って、どの曲が消えてどの曲が追加されたのか整理してみました。

~~~~追加された曲~~~~

  • ALFIE
  • BEWITCHED
  • CEORA
  • CHASING THE BIRD
  • COLD DUCK TIME
  • DON’T GET AROUND MUCH ANYMORE
  • EV’RY TIME WE SAY GOODBYE
  • GIRL TALK
  • MISTY
  • ON A MISTY NIGHT
  • ON THE STREET WHERE YOU LIVE
  • S’WONDERFUL
  • TEEN TOWN
  • WHAT A WONDERFUL WORLD
  • YOU’RE MY EVERYTHING

~~~~消えた曲~~~~

  • BRIGHT SIZE LIFE
  • CENTRAL PARK WEST
  • COUNTDOWN
  • COUSIN MARY
  • FARMER’S TRUST
  • FLAMINGO
  • GEE BABY AIN’T I GOOD TO YOU
  • JAMES
  • MEANING OF THE BLUES
  • PASSION DANCE
  • SOMETIME AGO
  • SONG FOR BILBAO
  • SUMMER SAMBA
  • TRAVELS
  • TURNAROUND

~~~~名称変更~~~~

  • MEDITACAO⇒MEDITATION

改訂後は「Misty」が遂に入りました。パットメセニーが好きな人は改訂前の方がいいかもしれませんね。改訂前の黒本もまだ売っています。
注意!こちらは改訂前のものです。

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ジャズ・スタンダード・バイブル2
(黒本2初版)
納 浩一 (著)
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コメント

  • おぉ~、黒本2の改訂版で外された曲、新規掲載の曲が知りたかったので、たいへんありがたい。
    自分はジャズドラム初心者(といいつつ6年・・)なので、黒本1の227曲だけ押さえておけばいいか・・などという邪道な考えを持っているので「黒本問題」は耳が痛い・・

    入り口としては貴重な役目を果たしていると思うのですが、そこから世界を広げられるかどうかは、自分次第ですね・・

    2017/3/16 0:04 | lackofsleeeep

    • コメントありがとうございます。黒本2改訂版を実際にお持ちの方から「DON’T GET AROUND MUCH ANYMORE」が追加されていない、つまり、リットーミュージックが間違えていると情報を頂いております。ちゃんと確かめた訳ではないのでまだ載せています。もしこの曲が大好きでしたらご注意ください。

      ドラムの場合は、一般的にここでこうする的な…お約束もあるので、音源をたくさん聴いて色々知っておいた方がいいような気がします。

      2017/3/16 19:45 | LARGO