楽しいジャズピアノの練習方法を追求するブログ

個性的な曲を演奏すると見えてくる問題

セロニアス・モンクの Evidence という曲があります。コード進行は Just You, Just Me というスタンダート曲と同じでハーモニーは普通なのですが、メロディがバッキングみたいで、これをメロディと言っていいのだろうか? という個性的な曲です。黒本にも掲載されていますので曲を知らない方はメロディを確認してみてください。「ナニコレ?」って思うはずです。

そんな個性的な曲なのですが、演奏してみるとある種の問題が見えてきます。個性的なテーマに対して自分はどうアドリブすべきか?といった問題です。

この問題に答えを出してくれているミュージシャンが存在します。ブラッド・メルドーです。ハウス・オン・ヒルというアルバムのメルドー本人による解説がホームページで公開されています。日本語訳で抜粋します。

『それでは「Evidence」がジャム・セッションで演奏されたとしよう。誰もが例の一筋縄ではいかないヘッドをやり遂げて、一様に安堵の溜息をついた後、トランペット奏者が最初のソロを初め、1958年頃のマイルス・デイヴィス風アプローチをやってみせる。テナー・サックス奏者は1963年頃のウェイン・ショーター風に続く。ピアニストはハービー・ハンコックとマッコイ・タイナーを掛け合わせたもので続く・・・そのすべてがうまくいく、だがモンクの音楽はジャズに共通のジレンマを持ち込む。それはつまり、インプロヴァイザーはどこまでその曲を扱うべきなのか?メロディーをこなしさえすれば、モンクの曲はソロイストにさらなるものを求める。なぜなら「ヘッド」の部分がそれだけ強烈で多様な意味にあふれているからだ。・・・<中略>・・・モンクの曲を演奏してみたら、という仮定の状況の中でソロイストが引き出してくる様々なスタイルは、楽曲の文脈を踏み外しているように思える。問題はそのことが審美上の欠点を生みだすかもしれないということだ。 』

どうアドリブするべきか?

では、個性的な曲では、どうアドリブすればいいのでしょうか?

  • 個性的な曲に自分の演奏を合わせるべきか?
  • 個性的な曲に関係なく自分のスタイルで演奏するのか?

いよいよ答えです。

『私にとって、インプロヴァイゼーションの成功は、それが曲に与えられている文脈にいかに適合しているかは問題ではない・・・そもそも、モンクの曲を演奏しているその人物がモンクの模倣をしようとしているのを聴きたいという人はいないのだから。成功するか否かはそのソロが曲の文脈をどれだけ超越できるかにかかっている。まずは曲の文脈という問題自体を忘れさせてくれることだ。それは最後には個人のソロイストの空想力と独創性によることになる。数多くのジャム・セッションが審美的に貧相なのは、アイロニーが弱いせいである。プレイヤーたちは、お互いまるで文脈もなく、それぞれが自分の得意技を演奏しているだけで、しかも意図的にそうしているのではないのが問題で、ただ自分たちがすでに知っているものを演奏しているに過ぎず、知っていることの出所は勝手きままで多様な音楽源なのだ。だからといって、自分のソロではジャズの特定スタイルを演奏すべきという話になっては困る。たとえば、アルト・サックス奏者がデューク・エリントンの曲をプレイしているからといって、ジョニー・ホッジスのようにプレイするべきだということにはならない。そのような戦略を支持することは本質的にインプロヴァイジングをあきらめるということになる。』

モンクもメルドーも確固とした自分のスタイルがあります。モンクは自作曲が多いのですが、気に入ったスタンダード曲は演奏していて、それが見事にモンクの作品のようであるかのように自分の色に染めているし、メルドーがモンクの曲を演奏したとしても、それはまったくメルドーの世界であり

「曲の文脈という問題自体を忘れさせてくれる」

確かにそうなっています。

参考音源

The Unique / Thelonious Monk

モンクは自作曲が多いのですが、このアルバムはスタンダード集です。プロデューサーのオリン・キープニュースが個性が強すぎるが故に受け入れられないのではないかと心配して、スタンダード曲ばっかりにしたのですが…モンクが料理するとモンク味しかしないという結果に終わっています。

Anything Goes / Brad Mehldau Trio

モンクの Skippy をカバーしてます。これが本当にすばらしいです。ドミナント7thコードが2拍ごとにチェンジしまくるいう、アドリブが難しそうな曲ですが、メルドーはクールに軽々と凄いフレーズ…彼の必殺技である対位法アドリブ…を炸裂させてたりで本当にカッコイイです。他の曲も素晴らしいのでお薦めのアルバムです。

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