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シャンドール ピアノ教本

「理想的なピアノ奏法とは」という記事でちょっとだけ紹介しましたが、とにかくいい本なのでここらでがっつり紹介します。

『 Gyorgy Sandor On Piano Playing Motion, Sound and Expression』
『シャンドール ピアノ教本 身体・音・表現 / ジョルジ・シャンドール著 岡田暁生監訳』

シャンドール ピアノ教本

ISBN-10: 4393937635
ISBN-13: 978-4393937631
3,024 円
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シャンドールについて

この本の著者、ジョルジ・シャンドールについて簡単に紹介します。


ジョルジ・シャンドール (Gyorgy Sandor 1912年9月21日 – 2005年12月9日)は、ハンガリー・ブダペスト出身の伝説的なヴィルトゥオーソ・ピアニスト。リスト音楽院でピアノをベラ・バルトークに、作曲をゾルタン・コダーイに学ぶ。動乱を逃れてアメリカに亡命後、旺盛な演奏活動を展開。バルトークの主要作品の初演を数多く行ったことで知られている。晩年まで精力的に活動、ニューヨークにおいて心不全により亡くなった時は93歳と言う長命であった。

南メソジスト大学、ミシガン大学、及びジュリアード音楽院において1982年まで教鞭をとった。教え子にはエレーヌ・グリモー、イアン・ペイス、フォルテピアノ演奏家のマルコム・ビルソン、アルゼンチンの作曲家エゼキエル・ビニャオなどがいる。これらの活動により1996年にはニューヨーク大学より名誉博士号が授与された。

師匠バルトーク譲りの明晰なピアノ奏法に加え、温かみもある独特な演奏が特徴である。80歳を超えてもピアニストとしての活動を続け、晩年においても極端なテクニックの衰えがなく、最晩年でも円熟味のある演奏を聞かせている。

動画1

これは2003年の演奏なので91歳の時です。演奏後歩くのも大変そうです。

動画2

上腕や前腕、手元はこちらの動画の方が確認しやすいです。1993年の演奏とあるので81歳の時ですね。

目次

第1部:ピアノ技術における基本要素
 第1章:音楽・動作・感情
 第2章:ピアノ
 第3章:演奏する身体のメカニズム

第2部:五つの基本動作
 第4章:自由落下
 第5章:五指運動と音階と分散和音
 第6章:回転
 第7章:スタッカート
 第8章:突き
 第9章:五つの基本動作のまとめ

第3部:技術は音楽になる
 第10章:五つの基本動作の確認と応用
 第11章:独立と相互作用
 第12章:ペダル
 第13章:歌う音
 第14章:練習について
 第15章:暗譜
 第16章:音楽の句読法
 第17章:公開演奏
 第18章:舞台マナー/癖と有り余るエネルギー

訳者あとがき
 「身体の近代/近代の身体」からの決別(岡田暁生)


第1部はピアノ奏法を論じる前にまず前提条件をしっかり確認という事だと思います。第1章「音楽・動作・感情」と、その前にある「はじめに」は、この本の基本的な考え方、概要が書いてありますので、もしこの本を買おうかどうか迷ってる方は、本屋さんに行って、このへんをちょろっとを読んでみるといいと思います。

第2部に具体的な身体の使い方が書かれています。図や写真が多くてわかりやすいです。

第3部は技術をどう身につけて実践していくか、という事と、練習方法、暗譜、舞台マナーなど、ピアノ奏法とは直接的に関係ない事も含まれますが、どれも興味深く役立つ事がたくさん書かれています。

重量奏法と脱力の否定

重量奏法を否定している箇所を抜粋します。『』内が抜粋。

『力の代わりに重さを使う事によって、筋肉が酷使される感じはかなり緩和された。かくして筋肉の弛緩を主張する楽派が現れたのだ。このメソードは大変流行したが、残念ながらそれもまた申し分ないとはいえなかった。重さを利用するだけでは単に、古い演奏技術につきものだった緊張に比べて、腕や身体が相対的に心地よく感じられるようになるだけである。今や弛緩した奏法の信奉者たちが、だらしなく、ムラの多い、不正確な演奏をし始めた。この奏法では、筋肉を緊張させることで得られるコントロールは不可能になったのである。ピアノを演奏している間、筋肉が完全に弛緩していることなどないのは明らかであろう。動いている筋肉もあれば、弛緩している筋肉もあるのであって、どの筋肉を動かすべきかをきちんと見分けねばならないのだ。』

指を鍛えてはいけない

この本では指を鍛えるという考えを強く否定しています。そんなところを抜粋してみます。

『多くのピアニストは、ショパンの<エチュード>作品10-1や作品10-2を弾く際、あるいはショパンの変イ長調の<英雄ポロネーズ>やリストの<葬送>の連続した急速なオクターブのパッセージを弾く際、筋肉疲労は避けられないものだと信じ込んでいる。しかし私は同意できない。彼らは、疲労の原因は筋肉が弱いせいだと考え、これらの筋肉を鍛えなければならないと強く主張する。これほど真実から遠いことはない!』

『ピアノ教育界では「指を鍛える」という言葉が当たり前のように使われています。私はこの言葉が大嫌いです。非常に誤解を招きやすい言葉だからです。「鍛える」という言葉のイメージからピアノを弾くには筋肉を増強しなければならないという大きなそして愚かな勘違いです。』

小さな筋肉は正確な運動に、大きな筋肉はその補助に用いよ

これまで指を鍛えようと、ハノンやチェルニーをがんばってた人は

「指を鍛えないなら、どうしたらいいの?」

という疑問が浮かぶかもしれません。その答えは「コーディネート」という言葉を使っていますが、コーディネートとは要するに、指を動かす筋肉は弱いので大きい筋肉で助けましょう、という事です。具体的な身体の動かし方は「第2部:五つの基本動作」に詳しく書かれています。

『ピアノ演奏では筋肉の強さや持久力が問題なのではない。我々には自分の意のままになる、非常に複雑な筋肉組織が備わっている。これらの筋肉には、小さくて弱いものもあれば、強くてパワフルなものもある。もし大きい方の筋肉を適切に使う事が出来れば、弱い筋肉を鍛える必要などない。我々が学ばなければならないのは、どんな難しいパッセージであっても、必要な部位だけを使い、何の疲労の痕跡もなく弾けることを可能にする、そんな身体のコーディネートである。』

上手く弾けないのは指が弱いからで鍛えなければならない、薬指や小指が良く動くように鍛える…などは間違った考え方という訳です。

それだけでなく、本来持っているはずのコーディネート能力を、ハノンやチェルニー、ピシュナなどの指ドリルを使って機械的な練習することで失ってしまう、という事も言ってます。

『こうしたコーディネート能力を失う原因として最もありがちなものは、指を独立させたり、弱い「手首」の筋肉を鍛えるために考案されたドリルを過度に用いることである。』

ピアノを弾くのに特別な筋力は必要はなく、生まれながらに持っている日常生活に必要な筋力で充分であり、コーディネート能力を磨くだけでよい、という事を一貫して主張しています。

強い指への信仰とピアノ教育業界

そんな考えは受け入れられない、という人も多いでしょう。しかし、そういった方にぜひとも読んで頂きたいのが、岡田暁生さんによる「あとがき」です。ここには、どういった経緯で「指を鍛える」という考えが広まっていったのか(特に322ページ以降に)詳しく書かれています。

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